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MABOROSHI × 開化堂 × 上出長右衛門窯 × GEN GEN AN幻の開催を終えて

2022.01.14 - 01.16「幻」in 小樽
2022.01.29 - 01.30「幻」in 渋谷

あれは幻だったのか。

雪の吹き荒ぶ小樽で、年明け3日間に渡って行われたイベント「幻」。
どちらも140年を越える伝統工芸の“老舗”である京都の開化堂、石川・能美の上出長右衛門窯。そして佐賀・嬉野をルーツに持つGEN GEN AN幻が、ブランド「MABOROSHI」を核に持ち、遠く北の大地に集った。

きっかけは、2021年の年の瀬に「MABOROSHI」のディレクターでもあるサカナクションの山口一郎の「小樽という地で何かできないかな」という一言だ。サカナクション2年ぶりのライブツアー、そのライブ地である札幌から電車で約一時間の小樽は山口の出身地。今もご両親が住む思い入れの深い土地である。

元来、『縁日』をコンセプトに何かできないかと考えていた丸若。同時に「MABOROSHI」を軸に新たな取り組みをしたいという想いを持っていた。そこでふと出会った「小樽で」というテーマ。かねてから『縁日』の構想を共に語り合っていた開化堂・八木さん、上出長右衛門窯・上出さんを誘い、取り組みはスタートする。

「『縁日』の魅力って、統制がどこか取れていないことにあると思っているんです。その統制の取れていなさがどこか情緒的でこどもながらにワクワクドキドキする景色だった。今の時代、職人さんとリアルに接することのできる場が、百貨店などでの催事となり『型』がどうしても出来上がりつつある。そうではなく、かしこまる前の距離感を大切にした『酉の市』のようなリアリティのある興奮を実現できたらな、と常々考えていました。」(丸若)

実際に「作り手」と出会い、プロダクトを手に取れる場をつくることの大切さ。「人柄」や「気持ち」を体感できる時間・場所を作りたいという気持ち。さらに、初心に戻って、自分たちがお客さんに接するという体験。数年温めていた想いの種が、小樽という場を与えられたことで「幻」という取り組みとして花開くことになった。


実験の小樽

2021年1月。大雪の中、日本全国から小樽の会場に多くの人が集まった。その中で、香り・茶・茶筒・茶器が揃い、それぞれの代表が実際にお客さんを目の前に実演をしたり話をしたり。上出さんによる“朗読”というパフォーマンスまで飛び出した。10年来の縁がありながら、初めて三者のみで実施したプロジェクト。「イベントを通じて、互いに補填し合うことのポジティブさを感じた」と丸若が話す、信頼でつながった関係性。この三者だからこその安心感を感じられるイベントになったという。

「サカナクションという存在に出会って、音楽はもとより、チームでクリエイションをすることの凄みを感じました。関わる人みんなが多様なジャンルのプロフェッショナルで、『今の時代のチーム作り』みたいなものを体現しているなと。近いところでその凄さを見ていて、自分たちも『チーム』を組んで自分たちにしかできないものを生み出していきたいという想いが強まりました。垣根なく集まれる『チーム』づくりへの憧れと可能性を今回改めて感じましたね。また、音楽を通して、関わりを通して、これまで与えていただいたものを微力ながら恩返しできたらという気持ちもありました。」(丸若)

「これまで、催事などで実演の機会は幾度もありました。ただ、そこで商品の説明はできても想いを伝えるまでにはいかなかったんです。来てくださるお客さんとの温度の差もある。やはり『販売につなげる』ということが主語になってしまう普段の実演と違って、今回のイベントでは、『自分たちが何を想ってもの作りをしているのか』ということ、『これから先、どう一緒になって価値を伝えていけるか』という話ができたことが良かったな、と。時間をゆっくりと持つことで、お客さんとより近い距離感で、『作り手』としての想いを伝えることができたことがとても印象に残っています。」(八木さん)

「この2年、コロナ禍で今までのやり方ではできないことだらけになって。そんな時に山口一郎さんが言っていた『(コロナという)夜を乗りこなす』というメッセージに共感して、毎年恒例になっていた窯まつりの開催を模索したり、オンラインの活用や新しい売り方を考えたり、窯元としていろいろな取り組みを行いました。今回のイベントでは、これまでオンラインショップを通じて、商品を購入していただいたり、SNSで交流させてもらった皆さんと実際にお会いすることができたのはすごく嬉しかったです。あと、一郎さんのお父さんの保さんに、『君たちはコロナで花開いたんだな』と言っていただいたのも心に響きました。花開いたかどうかはわからないけど、コロナ禍での挑戦が実際に僕たちの力や自信になっていると感じていたんです。コロナ禍で見つけた朗読の楽しみも、小樽で実際に聴いていただくことができたのも幸せでした。」(上出さん)

 


復習の渋谷

小樽から2週間後、渋谷のGEN GEN AN幻にて2度目の「幻」が開催される。

「場所と時勢の関係上、どうしても人数を絞っての事前予約制でのイベントになった中で、『繋がりたい』と思ってくださる方の受け皿をどうつくるか。それを考えた上でオンライン販売という手法もポジティブに取り入れました。感情的に突っ走る部分も多かった小樽でのイベントで実施したことを再編集して復習した、という感じです。小樽と渋谷、あわせてひとつの経験だったと今は思います」(丸若)

「最近、『ファン』と『推し』は違うということを考えていて。『ファン』はただ遠くで見ている人、『推し』はその人を応援し、押し上げていく共犯者に近い存在だと。それを聞いて、もっと『推し』てもらう存在にならないといけないな、という想いに至りました。ちゃんと体感・体験を共有することの重要性を感じましたね。」(八木さん)

渋谷では、対話を一番にして、それぞれの参加者のコンシェルジュになった気持ちで取り組みました。会期中にオンラインで限定プロダクトの販売を行うという新たな取り組みに挑戦した。結果、上出さんの落書き笛吹は開始2分で完売。「幻」への「関係」欲求は数字となっても現れた。

「お客さんと直接コミュニケーションを取るという経験を通じて『実演』の持つ力の強さを知る一方で、オンラインでの販売の結果を知り『モノが売れる』という実感もまた今回のイベントでは強く感じました。『売れる』ということ、それは『作り手』にとって、とても喜ばしいことで、未来の希望にもなるな、と。」(八木さん)

「1回目の小樽はリアルを重視して、渋谷では、アンリアルな関係性の可能性も発掘できた。オンラインに対してポジティブな環境が少し見えたことが、次につながるな、と。ECだからこそ、リアルだからこそできることを考えていくことが大切だな、と思っています」(丸若)

「今回の幻で中心的にお見せした湯呑はそれぞれ職人が手で作っているので、一つ一つ個体差があるんです。この2年で頑張って来たオンラインでの販売は、その個体差を感じることが出来なかったけど、実際に物を見て買ってもらう時は逆に大きな価値になることを知りました。同じ商品でも重さや形、絵の雰囲気や色、線の違いなどを間近で実感されるのを見て僕も嬉しかったし、皆さんにとってもきっと特別な体験になったんじゃないかと思います」(上出さん)

MABOROSHIの目指すところ


「幻」の主軸となった「MABOROSHI」。音楽という目線で見た「香り」と、茶という目線から見た「香り」。そこを起点に誕生した「MABOROSHI」のキーワードは“五感”である。

「今回、軸として据えた『MABOROSHI』という香りのブランド自体、単に“良い香り”で終わるのではなく、五感すべてが良い状態になることを目指しています。五感すべてが整ってこそ、豊かな時間が生まれる。今回の取り組みでも、嗅覚だけでなく、触覚、視覚、聴覚、味覚。『MABOROSHI』だけではできないことを、開化堂さんの茶筒、上出さんの茶器、そして茶、音楽と組み合わせることで、各々が引き立て合い、相乗効果を生みました。五感に対して訴えかけることをすごく大切にしたので、単純に香りのブランドではないということをメッセージとして初めて伝えられたのかな、と思っています。非常に意義深い時間だったなと。」(丸若)

「今回のイベントを通じて感じたのは、工芸の未来が詰まっているということでした。器を起点に何かを、茶を起点に何かを、というと、どうしても既視感がある。ですが、香りというバックグラウンドがあると、『何をやるんだろう』という期待に変わっていくな、と。だからこそおもしろい。どんどんハードルは上がっていくんですが」(八木さん)

「香りって形がなくて掴めないし、時間が経つと消えてしまうもの。だからこそそれぞれの感覚やイメージに寄り添うのかなと思う。口から発せられた言葉にも近い気がして、朗読との親和性が高いと感じました。慣れ親しんだ渋谷での開催も楽しかったけど、小樽は雪もすごかったし全てが非日常で、『幻』感が強かった。主催者側の僕でさえ夢だったのでは?って時々思うほど。でもお土産でもらったあの香りを嗅ぐといつでも小樽に戻れるんです。僕はそのように感じるんですが、来た方にはそれに加えてお茶や茶筒、お茶碗、全てが依り代のように、記憶を呼び覚ます道具になってくれたら、それは工芸品としても幸せだなと思います」(上出さん)

職人たちが集い、ひとつのブランドを作り上げる。それが「MABOROSHI」が目指す姿だ。

「人と人が出会う場所」としての「縁日」というコンセプト。チームとして経験を積み重ねていくことの大切さ。そのコンセプトを実現した、たった5日間だけの「幻」というイベント。三者だけでなく来場者もスタッフも、関わった全員にとって実験のようなイベントは、多くの可能性を広げて、記憶として残っていく。

「偶然でもなく、奇跡でもなく、必然だけど、絶妙なバランスでできたイベントでした」(丸若)
「今回は小樽と渋谷で開催したので、次は九州・関西・北陸へ」(八木さん)
「今日たまたまこの三人でパリに行く夢を見たんですが、外国でもやりたいよね。きっとまた珍道中になると思うけど(笑)」(上出さん)

今回の取り組みを応援してくれた全ての方々に感謝をお伝えすると共に、今後も香りとともに開催するこれからの様々な取り組みと、予測不能なゲリラ“縁日”の開催を一緒に楽しんで頂けるよう、素晴らしきMABOROSHIの仲間と歩んでいきたいと思う。

 

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